ENEX2016レポート

1/27-29に東京ビッグサイトでENEX/SEJ 2016という、エネルギー関連のイベントとしては国内最大(来場者5万人)のイベントが開催されました。こちらで、日本スマートハウスの中心的存在であるKAIT(神奈川工科大学)が今年も出展され、私もお手伝いをしてきましたので報告します。

昨年もこのイベントに向けてコンテストを開催したのですが、今年は11/14~1/14の日程でさらに深くかかわらせていただきまして、ブースのレイアウトデザインまで拝命してしまいました。その奮闘記を書きたいと思います。

目次

動機
昨年との違い
今年の目標
 ・非エンジニアのサポート
 ・フィールド審査
 ・機械学習
結果
ブース
お世話になった企業・団体
反省・次回に向けて

動機

このイベントに我々が挑む根本的な理由は昨年と変わりません。既存電力会社が血眼になってスマートメーター導入を進めていながら、宅内でその情報を取得できる手段、所謂Bルートの有用な利用法が、いまいちわかっていないということなのです。そのあたりの説明は、去年のブログをご参照ください。

少しだけ補足しますと、Bルートの特に素晴らしいところは、(現在メインの用途である所の)Aルートと異なり「瞬時値」と呼ばれる今現在の電力使用量がいつでも取得できるところなのです。電力使用量を用いた様々なサービスを考えようと思ったら、Aルートを流れる30分間隔の累積値だけでは不十分なことはすぐにわかります。ここを掘り下げることで、Aルートにできないことができるようになることは、概念的には明らかです。加えて、BルートとHAN(宅内LAN)との間に位置するHEMSコントローラでは、家電やスマートフォン、場合によっては宅内に設置されたセンサーなど、様々な情報にアクセスすることが可能になります。これらを総合すれば、いろいろなことができそうな気がしませんか?

経産省資料
※図は経済産業省資料より

昨年との違い

去年と違うのは、今年の4月から電力小売り完全自由化が始まるということがあります。これは、東日本大震災以降大きく転換された日本の電力政策の根幹をなす施策の一つであり、私たちの生活にも直結する大きな変化をもたらします。電力自由化については、あまりとっつきやすくはないものの網羅的に説明されている気がしたので、資源エネルギー庁の説明ページをおススメしておきます。

ENEX2016でも東京電力はじめ多くの既存電力会社が大々的に自由化で何が変わるかアピールしていましたし、新規参入する小さな電力会社が多数目につきました。戦国時代が始まったかのごとく、みな一生懸命に営業をされていました。なんかワクワクしますね!ただ、ちょっと過熱気味だという報道もあるので、消費者の気持ちを想像しつつ紳士的な戦いをしてほしいものです。

さて、このような背景の中、今年のENEXにもKAIT(神奈川工科大学)がブースを出されるということで、しかも広さも昨年度の6コマに対し10コマと大幅増量されるとのこと、大変な意気込みを感じました。ありがたいことに、見える化アプリコンテストに関しても昨年同様ご依頼をいただくことができ、さらに今年はブースのデザインまでお任せ頂くという、客観的に言えば本当に私で大丈夫か?と思われるようなご決断を頂きまして、私も自分が見えていない厨二病人間なものですから、後先考えずお受けしてしまいました。実は私はイベントブースの造作マニアで、イベントの度に写真を撮りまくっていることもありまして、人生こんな機会はまたとない、と有頂天になってしまったのは確かです。秘めた夢を実現してくださったKAIT笹川様には頭が上がりません。


KAIT笹川様

また、今年は一緒にコンテストを運営する企業パートナーとしてインターネット・イニシアティブ (IIJ様 以下敬称略)をご紹介いただきました。IIJはご存知のように日本のインターネットの屋台骨となっている超優良企業で、私もはじめてのプロバイダーとして迷わずiij4uを選択し、それからずっと憧れの企業として意識していましたので、このたびご紹介いただいて大変光栄に思いました。(ちなみにプロバイダーに関しては、その後フレッツが登場して乗り換えてしまいましたが^^;)

ちょっと脱線しますが、KAITの笹川様からは、IIJのことをよく知るための一冊として、創業者で現会長の鈴木幸一氏による「日本インターネット書紀」をご紹介されまして、早速読んだところ、ますますファンになってしまいました。この本は大変なエネルギーで書かれており引き込まれますので、一見厚そうですがすぐに読み終わります。創業者というものをよく理解できますし、インターネットの黎明期の空気感も感じられる名著だと思います。ぜひ読んでみてください!

今年の目標

さて、そんな中はじまった今年度のENEXコンテスト企画でしたが、去年より早くお声掛けをいただいてスタートできたこともあり、またIIJと一緒に開催させていただけるということもあり、単に昨年と同じようなコンテストを開催するのでは芸がなく、何か業界を変革するようなコンテストにしたいと考えました。そこで、最近ずっと「HEMS分野には生活感のないアプリが多すぎるのではないか?」という問題意識を持っていましたので、これを解決するような仕組みを作りたいと思いました。生活感がないというのは、つまりは一般消費者のニーズをすくいきれていないということで、見える化アプリを例にとれば、たいていのものはひと月くらいで見なくなってしまうということが言われていることが好例だと思います。(ただし、ひと月で本当に見なくなるかについては統計資料を参照しているわけではなく、業界でよく言われることにすぎません。どなたか参考文献をご存知であれば教えて頂きたいです。ちなみに私はひと月で本当に見なくなりましたが。)

そのために、まずは次の二点を目標として掲げました。

・これまでHEMSアプリや見える化について考えたことのない人に参加してもらうこと
・応募された作品は、実際に使ってみた結果で評価すること

まず一点目については、これまでスマートハウスのサービスはエンジニアが考えてきたものが多かったのではないかということがあります。エンジニアだから考えられるもの、見えているものもあると思いますが、えてして生粋のエンジニアは家事には疎いもの。日常の家事を改善するというのは、エンジニア的なマインドには難しい点もあるのではと考えました。

二点目は、私自身がこれまでハッカソンやコンテストに参加した経験からぜひとも試してみたかったことです。なにがしか新しいものを目の当たりにしてそれを評価するとなった時、どうしても見た目の印象や、プレゼンテーションの巧拙(必ずしも檀上で話す場合でなくても、わかりやすさや、説明の上手さ、インパクトといった点)が評価されがちです。そのため、必ずしも実装が行き届いていなくても、高評価を得てしまうようなこともあります。しかし、実際の生活で継続的に使われるものに関しては、そういった第一印象による評価が正しいとは言い切れません。むしろ地味でしっかりと実装されたものの方が継続性という点ではすぐれていると言えるのではないでしょうか。

例えるなら、高級な中華料理をたまに食べに行くと大変おいしく幸せな気持ちになりますが、毎日食べるとなったらやっぱりごはんにみそ汁、鮭の塩焼きにまさるものはなく、これはいくら食べても飽きが来ないのに似ているかもしれません。

非エンジニアのサポート

非エンジニアを対象にするためには技術的なサポートが必要です。そこで、初心者歓迎と銘打ったイベントをほぼ毎週開催し、プログラムの初歩から学べるようにしました(実際には、複数回参加する方のために、0からのスタートではない会に切り替えた回もあります)。

いやー、振り返ってもがんばりました。

なお、ほとんどのイベントは、リノベる株式会社のショールームコネクトリーラボで開催しました。こちらは渋谷の一等地に昨年9月からオープンしているおうちハッカー向け住宅ショールームであり、無料で貸し出しされています。このコンテスト以外でも大変お世話になっている施設です。どうもありがとうございました!

ちなみにここには書いていないのですが、12/27にも関西おうちハックの拠点であるロックオフでイベントを開催し、スマートメーターアクセスを体験していただきました。ロックオフさんには、このためにスマートメータの導入とIIJのHEMSコントローラまで導入していただき、頭が上がりません。

フィールド審査

二点目、実際に使ってみて評価するという点に関しては、IIJに大変お世話になる形になりました。IIJのBルート対応HEMSコントローラであるSA-W1を使うと、HAN側(宅内LAN側)にスマートメーターのECHONET Liteオブジェクトがアクセス可能になるので、Kadecotからメーター情報にアクセスすることは技術的にはできるのですが、果たして応募された作品を誰に評価していただくかが大きな問題でした。IIJではスマートメーターが導入されている社員からなる実証実験ネットワークがすでに構築されており、これを今回のコンテストの評価で利用させていただけることになり、実現できることになりました。

見た目や印象ではなく実際に使った結果で評価できるということは、自画自賛に近いですが本当にすばらしいことだと思っています。スマートハウスのように、日常の生活に役立つものが必要な分野(そして敢えて言えば、長い歴史の中で様々な「技術者主導の」システムが提案されてきた分野)では、このような評価システムであることが必要であり、それでありながら実際にはあまり実行されてこなかったことなのです。

なぜなされていないかというと理由は単純で、それを行うことが難しいからです。世の中にあるスマートハウスの「実証実験住宅」には、人が住んでいないことが多いです。これは、会社など組織の予算で個人宅に装置を導入するのには抵抗があり、逆に作った実証実験住宅に誰かを住まわせることもせいぜい一時的であり、定常的に実施することは難しいと考えられます。スマートメーターは全世帯に導入されるので、ようやくこのようなことが可能になってきたと言えますし、IIJからいち早く社内の実験環境をご提供いただけたからこそ実現できたことだと思います。さすがIIJです。慶野様、近藤様ほかIIJの審査参加メンバーの皆様に心から感謝いたします!

機械学習

そしてまたもう一つ、さすがIIJと思えることがあったのです。それは、その社内ネットワークから得られた過去の電力ログデータもまた、コンテストのためにご提供いただけたのです。

これはまた私の持論なのですが、スマートメーターが格段に面白くなるのは、そのデータを機械学習技術により分析できるようになってからだと思っています。つまり、生データもそれはそれで意味があると思っていますが、そのデータを機械処理し「ライフログ」と呼べる情報(例えば、帰宅時間や睡眠時間などを)を抽出できるようになったら、生活に直結するアプリ開発の可能性が飛躍的に広がると思います。

ただし、機械学習にはアルゴリズムを鍛えるための多量のデータが必要です。スマートメーターはまだ導入が進められている途中段階であり、またそれも急ピッチであるために、十分なデータを得ることは難しいので、今回はひとまず機械学習をコンテストに含めるのはあきらめていました。しかし、IIJと打ち合わせをしていた時に、社員のネットワークから得たデータをコンテストのためにご提供いただくことも可能である旨お申し出いただきまして、それならぜひ今回機械学習を入れたいです!!ということで、急きょ実現の運びとなったのでした。データの提供条件なども迅速に法務部を通していただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

機械学習カテゴリーにおいてはどのような課題にするか、かなり悩みましたが、あまり野心的なものは避け、まずは基本中の基本ということで、スマートメーターの過去ログを用いて、未来一日分の電力使用予測をするという課題にしました。以下のように、一か月分のデータを用いて、次の一日分の30分間隔累積値、48サンプルを予測することになります。

結果

コンテストの結果はコンテストのHPから公開されています。全部で5つの賞、うち3つは各10万円が副賞として与えられました。

カテゴリー1の電力見える化アプリでは矢鋪知哉さんの「バブライズでんき」が最多票を獲得し「生活デザイン賞」を獲得しました。こちらは瞬時値に応じて泡がたくさん浮かんでくるというもので、直感性の高さが好評につながったのではないかと思っています。

カテゴリー2の「機械学習賞」は、今井朝貴さんの「7meandiff」が獲得しました。こちらは、一言で言って過去一週間のデータの平均をもって明日の電力消費の予測とするものです。非常に単純ですね。今回は用いたデータもビッグデータと呼べるほどの大きさはありませんので、絶対的にこのアルゴリズムが優れていると断定するものではありませんが、興味深い結果だと思います。

もう一つ、ENEXブースに足を運んでいただいた来場者の方に投票していただいて「コンセプト賞」が決定しました。平岡千尋さんがお作りになった「しほちゃん」でした。こちらは確かにインパクトのある作品でした。

また、KAITスタッフ投票によりMacTuiTuiさんの「Clock 02」が「神奈川工科大学賞」となりました。こちらは、デジタル時計で見える化をするというもので、各桁がそれぞれの重みをもった色によって表示されます。既存の時計を用いた多重解像度の見える化を行うというアイデアは私にとってかなり大きな驚きでした。

もう一つ、神奈川工科大学ブースに出展した企業内の投票により菱田哲也さんの「火時計」が「神奈川工科大学研究センター出展企業賞」を受賞しました。こちらは、時計による時刻表示、その中心に履歴の表示、そして背景の燃え盛る炎が瞬時値を表現しているという、大変豪華な作品となっています。

カテゴリー1の全作品は、YouTubeにあげてあります。

また、カテゴリー2の作品と、審査用プログラムはGitHubにあげてあります。
https://github.com/SonyCSL/LifeAppDesignContest2016_MachineLearningCategory

ブース

そしてブースです!情報理工卒で研究者として活動しているような、下手なプログラム以外なにも取り柄のない私が、ENEXの10小間もの大ブースのレイアウトを考えるなんて、誰が想像しえたでしょうか。佐藤雅彦先生じゃあるまいし、笹川さんどこまでリスクをとるんでしょうか!?

といいつつ、私はブース好きの趣味を持っており、こんな機会を逃したら次は絶対ないと確信できるものがあり、恐れ多くもお受けしてしまったのであります。ネタ出しの段階からセレスポ筒井さんらとの打ち合わせに参加させていただき、どぎまぎしながら企画をまとめまして、ギリギリまでご迷惑をおかけしながら、ついに設営の日を迎えたのでした。
紙の上にしかなかったものがこうして出来上がっていくのに胸熱を感じずにいられようかっ!!

そして遂に完成!感激!!


裏から見るとこんな感じです!

コンテストの所はこんな感じ。

今回主役はスマートメーターなので、それ以外の展示用機器は照明とエアコンと扇風機だけでした。展示什器を動かすコントローラとしては、TOPPERS/コアーズ株式会社様が開発しているボードPC用KadecotであるμKadecotをご提供いただきました。直前の修正依頼にも全速力でご対応いただいて、本当にありがとうございました!

経産省の林大臣も来られました!

そして宴が終われが速やかに撤収…ロマンだ…

今回私がこだわったのは、いかにも「業界団体」あるいは「大学」という感じを避けるために、

・見通しをよくすること
・黒ベースの引き締まった雰囲気を醸し出すこと

でした。どちらもある程度の効果を出したと思いますが、プロのデザイナーとの力の差を感じたのは、無難なところにしか落ち着けなかったことですね。他のブースを見ると、結構目立つために派手なことをやっているのですが、私は変に振り切って恥ずかしいものになってしまうのを恐れて、地味になってしまったきらいはあります。

また、後日言われたのですが、ブースによって見やすさ・営業の有利さの差が大きかったのも反省点です。そこはあまり検討に入っていなかったので心から反省しています。なかなか難しいですね…

お世話になった企業・団体

さて、今回ご協力いただいたのはIIJだけではありません。多数の企業からそのプロダクトや社内の資産をご提供いただきました。

まずサイボウズ様。こちらは、kintoneというクラウドグループウェアを展開されており、今回のコンテストに向けてイベントを共同開催させていただきました。正直このイベントのさいにはネットワークの関係でシステムが思うように動かず、大変ご迷惑をおかけしてしまいました。お詫びいたします。しかし家電ネットとkintoneの組み合わせはベストマッチングだと思いますので、今後もまたご一緒させて頂けたらなーと思っています。

次にソフトバンクロボティックス様。こちらはかの有名な家庭用ロボットPepperを製造販売している会社で、すでに私の知る前から私の家電サーバーKadecotを用いた家電連携イベントを開催してくださっていたのです!それを後から知った私はぜひ今後コラボさせて頂きたいと申し込んでおりまして、このコンテストで実を結んだわけです。今回Pepperを用いた作品投稿もあり、ENEX会場では場をたいへん盛り上げて頂きました。どうもありがとうございました。

そしてインターネットアカデミー様。Webデザインの学校です。こちらは前回も、イベント向けのセミナーを開催していただき、受講者に多々応募いただけていたのですが、今回も同じようにセミナーを開催していただけまして、その後もフォローアップを続けて下さり、コンテストが大変盛り上がりました。のみならず、ENEX当日の展示では説明員を派遣してくださり、先頭に立ってコンテストの説明をしていただきました。正直これはまったく想像もしていなかった助け舟で、非常にありがたかったのです。今年も受講生が受賞作品を作ってくださいました。これからもよろしくお願いいたします!!

株式会社ロックオン様/ロックオフ様/関西おうちハック様。ロックオフとは、株式会社ロックオンが所有している住居で、関西おうちハックの拠点になっています。こちらにスマートメーターと、IIJのサーバーを置いていただき、Kadecotからスマートメーターにアクセスできる環境を構築していただいたうえでハンズオンイベントを開催していただきました。関西おうちハックは非常に勢いがありますので、今後のコラボにもつながる素晴らしい足がかりになりました。今後ともよろしくお願いいたします!

ECCコンピュータ専門学校様。こちらでも、一度コンテスト向けのハンズオンイベントを開催させていただきました。すごい人数で緊張しました。関西の熱気のもとコンテストのご紹介ができて光栄でした。またの機会があればぜひお願いしたいです。

その他、文中でも触れた(株)リノベる様のConnectly LabやTOPPERS/コアーズ株式会社様、株式会社クレステック様デバイスWebAPIコンソーシアム様にも大変お世話になりました。どうもありがとうございました!



反省・次回に向けて

今回の反省点としては何より時間が足りなかったことが挙げられます。プログラムの初歩からはじまって、コンテストに応募できるレベルまで引き上げるのはやはりかなり難しいことだったと言わざるを得ません。
また、時間が足りなかったせいで、機械学習の方も中途半端な難易度になってしまったかもしれないと思っています。私自身が専門でないこともありますが、今後はもっと熟考の上、課題なども決めていきたいと思います。
時間の制約は、イベントの密度にも影響しました。回数は多かったのですが、それぞれに十分力を投入することができなかったことが悔やまれます。

他にもいろいろありますが、こういった反省を踏まえ、次回はもっと余裕をもって始めたいと思っています。夏までには第二回をスタートさせたいですね。乞うご期待!